武甲山御嶽神社里宮社務所は、12畳3部屋からなり、各部屋を仕切る杉板戸に、さまざまな画題の杉戸絵が濃彩(一部墨彩)で描かれている。
まず「菊花籬図」2面とこの裏2面は「磯に苫船図」で、これのみが障子戸の腰板に描かれている。
これ以外の杉戸絵の「牡丹遊蝶図」2面、伊勢物語「業平東下り」4面は、筆者は不明であるが、伝統的な大和絵の技法による堅実な描写と画面構成がみられ、画風からも同一作家と考えられる。
「老梅図」4面は、前出「業平東下り」の裏面のもので、画風は南画風。左端の杉戸の画面左上に「竹渓拙筆」の落款があるが、この経歴は明かではない。これのみ墨彩である。
「松にくじゃくず孔雀図」4面の画風は南北折衷の花鳥画、左端の左下隅に「□英其園写」の落款があるが、これも経歴は明らかでない。
「海幸彦、山幸彦」の4面は、前出「松に孔雀図」の裏面に描かれたもので筆者不明。
「静の舞図」の2面は、杉戸引き分けの2枚戸に描かれている。筆者不明。
これらの作品は江戸後期におけるバラエティーに富んだ杉戸絵の遺品として貴重な価値をもつものである。